jump to navigation

ブラウンタイド (bronw tide) 問題 2012/07/02

Posted by Masanobu KAWACHI in ピコ植物プランクトン, 環境問題, EDABs, 迷惑藻類, 大量繁殖.
add a comment

ピコ植物プランクトンの幾つかの種では、自然界で優占的な繁殖や水を着色するほどの増殖が確認されています。中でもAureococcus anophagefferens は、高密度に、しかも優占的に増殖することで、水界生態系に大きな影響を与えることが報告されています。A. anophagefferens は不等毛植物門ペラゴ藻綱に所属する種です。北米の大西洋沿岸域を中心に現在でも大量繁殖して問題となっています。A. anophagefferens の大量繁殖は、1985年頃から問題視され始めました(1)。大量繁殖時には100,000 cells/ ml以上の高細胞密度に達します。海水が茶色に呈色して、ブラウンタイド (brown tide) と名付けられました。この時には照度不足が原因で、海草類の大量枯死、そして二枚貝や稚魚など他の様々な沿岸性生物に影響を与えたことが報告されました(2)。A. anophagefferens に系統的に近縁でナノサイズのAureoumbra lagunensis (ペラゴ藻綱)という種もブラウンタイドを形成することが知られています。
A. anophagefferens A. lagunensis では、今のところ毒化合物は検出されていません。ただ細胞から分泌された多糖に毒活性の存在が示唆されているようです(1)。こうした毒活性が他の生物に与える影響など、機能に関する詳細は不明です。一方、培養試験からは、植物プランクトンの捕食者である二枚貝や動物プランクトンなどに、特異的な生理反応を誘因することで、捕食行動が抑制される現象が確認されています(3)。両種は、動物プランクトンに摂食されても消化されにくいこと、低照度、低栄養塩状態でもよく増殖するといった特性をもつことが指摘されています(4)。ブラウンタイドが一旦発生すると、長期に渡って発生し続けることで、(A)植物プランクトン捕食者に深刻なダメージを与え、(B) 動物プランクトンを介した栄養塩リサイクル機能の低下といった物質循環にも影響を与え、(C) 結果としてバクテリアや他の植物プランクトンにも影響を及ぼすことが指摘されています(4)。A. anophagefferens A. lagunensis によって引き起こされるブラウンタイドは、生態系を破壊する大量繁殖(EDABs: ecosystem disruptive algal blooms) の例としても取り上げられるようになってきています(5)。今のところ被害の報告は北米の大西洋沿岸域と南アフリカに限定されていて、日本を含むアジアでのブラウンタイドの発生は確認されていないようです。ブラウンタイドを形成する種が日本近海に生息しているのかどうかといった基礎調査が今後必要といえるでしょう。その他のピコ植物プランクトンの大量繁殖の例として、Micromonas pusilla や珪藻のMinidiscusSkeletonema 等が知られてますが、生態系や他の生物への影響等は今のところ知られていません(6)。

ブラウンタイド (brown tide) を形成するピコ植物プランクトン
A: Aureococcus anophagefferens, B: Aureoumbra lagunensis
Scale bar: 5μm, 写真提供:http://www.sb-roscoff.fr/Phyto/RCC/


1) Sieburth et al. 1988, J. Phycol. 24, 416–425.
2) Cosper et al. 1987, Estuaries 10, 284–290.
3) Robbins et al. 2010, Biol. Bull. 219, 61–71.
4) Sunda et al. 2006. J. Phycol. 42, 963–974.
5) Christopher et al. 2012. Harmful Algae 14: 36-45.
6) Vaulot et al. 2008. FEMS Microbiol. Rev. 32: 795-820.

ミネラルウォーターと藻類 2012/06/19

Posted by Masanobu KAWACHI in 迷惑藻類, 大量繁殖.
add a comment

ミネラルウォーターに藻類が混入することがあるようです。増殖して色が変わる場合も。今回、問題となった水は、確かに緑に色づいていました。検査で正体が分からないと言うことで、サンプルが持ち込まれてきました(120618)。顕微鏡で観察すると緑色の葉緑体を1~複数個もつ藻類が観察されました。単一種で、培養株といっても良い状態です。写真の右下の写真は破裂した細胞。観察している間に壊れていきます。細胞が壊れやすいせいで、正体がよく分からなかったのかもしれません。形態的な特徴から、おそらく黄緑藻綱(Xanthophyceae)のBotrydiopsis の一種と考えられます。分離培養して詳細に調べるつもりです。それにしてもミネラルウォーターのような水でも、色づくほどに増殖できるのには驚きました。